医学警悟 宿・因・本・病

八条目辨における臨床推論の前半四項目

宇津木昆台は、医者が診察する以前から患者側に備わる条件として、宿・因・本・病を立てます。体質、発病原因、病位、苦悩としての病を、検索可能な本文として公開します。

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八条目辨 / Static Text Entrance

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昆台の八条目は、宿・因・本・病・診・証・名・治の八項目です。前半四項目は、医者が来る前から患者側にすでに備わっている条件、後半四項目は、それを診断し治療へ接続する医者側の手順として読むことができます。

掲載範囲 四項目の整理 書き下し文 現代語訳 臨床推論上の意味 ビュアーで照合

掲載範囲

文献宇津木昆台『医学警悟』(『古訓医伝』所収)
単元緯篇冒頭 / 八条目辨
対応頁無料ビュアー seq21-24 / 画像ID kulib_00021-kulib_00024
主題宿・因・本・病。患者側に先在する体質、発病原因、病位、苦悩の整理。

四項目の整理

宿

生まれつきの体質、生活環境、平素の嗜好、持病、強弱、肥痩など、病が起こる以前からその人に備わる条件です。

病が起こる発端です。食べ過ぎ、飢え、房事、風寒暑湿、過労、感情、外傷、誤治、感染などが挙げられます。

宿と因が合わさって病が起こるとき、病毒が主として付着する部位です。表裏・六経・病位の中心を問います。

身体が苦悩する状態そのものです。症状名の多様さを越えて、人の苦悩を「病」の一字に帰します。

書き下し文

何をか八条目と謂ふ。曰く宿、曰く因、曰く本、曰く病、曰く診、曰く証、曰く名、曰く治、これを八条目と云ふ。

宿とは、其の人の稟賦を云ふ。強き者あり、弱き者あり、肥えたるあり、痩せたるあり、陽に属する者あり、陰に属する者あり、酒を嗜むあり、餅を好むあり、貧賤あり、富貴あり、性の寛なるあり、性の急なるあり、賢きあり、愚痴あり、心を労するあり、力を労するあり、安逸の者あり、勤苦する者あり、男女老少の差別あり。

又宿疾に種々の症あり、其の居処に肥土・瘠地・山・海・野・市の別あり、其の居室に広狭・寒暖・湿乾の異なるあり。持脈に大小・強弱・反関の別あり、乃至飲食の好悪・多寡・厚薄等、平生無病の時、一人として同じき者なし。

これ病の来らざる以前に、尽く其の人に備はり有り。其の佗枚挙するに遑あらず、類を以て推すべし。この類を都て宿と云ふ。

因とは、病の因りて興る所以の始めなり。この因を審らかにせざるときは、病情を知ること難し。

其の類は、食を過ぎしたるが因となりて、食滞と云ふ病を得る如く、食物を過ごさざるときは、其の病なし。これ食を過ぎしたるが因なり。

或いは飢ゑを忍んで病を醸し、房事を侵し、又は風寒に触れ、暑湿に犯され、身を労し心を苦しめ、又連夜寐ずして事をなし、喜怒哀楽を節することなく、或いは顛仆して打撲となり、高きより落ち、水に溺れ、火に焚かるる等、一として病を作すの因ならざるはなし。

本とは、宿と因と相合して、病の作るとき、必ず一身の内に主として、病毒の附着する所あり。此れ乃ち病の根本なり。

凡そ中風傷寒を始めとして、一切の雑病に至るまで、表の部位に附着するあり、裏に附着するあり。表を以て主として、裏の客となるの症あり、裏を以て主として、表の客となるの病あり、表裏俱に主となり、内外俱に主となるの病症あり。

其の主となるの部位、即ち本なり。向に論ずる所の六経の部位、乃ち万病の根本なり。此の本を明らかにせざるは、一病をも治すべからず。

病とは、一身の苦悩するを謂ふなり。無病に反する者是なり。

現代語訳

「八条目」とは何か。すなわち、宿・因・本・病・診・証・名・治。これを八条目と呼ぶ。

「宿」とは、その人の生まれつきの体質をいう。強い者もいれば弱い者もおり、太った者もいれば痩せた者もいる。陽に属する者もいれば陰に属する者もおり、酒を好む者、餅を好む者、貧しい者、富める者、おおらかな性質の者、せっかちな者、賢い者、愚かな者、頭を使う者、体を使う者、安楽に暮らす者、苦労して働く者、また男女・老若の違いがある。

さらに、持病にもさまざまな症状があり、住む土地にも肥えた土地・やせた土地・山・海・野・市場の違いがあり、住居にも広狭・寒暖・湿乾の違いがある。平素の脈にも、大小・強弱・反関などの違いがあり、さらに飲食の好き嫌い・量の多少・味の濃淡に至るまで、平生の健康なときから、一人として同じ者はいない。

これらは、病が来る以前から、すべてその人に備わっている。その他は一つ一つ挙げきれないので、同類のものから推し量るとよい。こうしたもの全体を「宿」と呼ぶ。

「因」とは、病が起こるおおもとの始まりである。この原因を明らかにしなければ、病の実情を知ることは難しい。

たとえば、食べ過ぎが原因となって「食滞」という病になるようなもので、食べ過ぎなければその病は起こらない。これは食べ過ぎが原因だということである。

あるいは、飢えを我慢して病を生み、性行為で身を損ない、また風や寒に当たり、暑さや湿気に侵され、体を酷使し心を苦しめ、夜通し眠らずに働き、喜怒哀楽を節制せず、あるいは転倒して打撲を負い、高所から落ち、水に溺れ、火に焼かれる、こうしたものは、どれ一つとして病を引き起こす原因でないものはない。

「本」とは、宿と因が合わさって病が起こるとき、必ず体内に中心となって病毒が付着する場所があり、それこそが病の根本である。

およそ中風や傷寒をはじめとして、あらゆる雑病に至るまで、病毒が表に付着する場合もあれば、裏に付着する場合もある。表が主で裏が従となる症状もあれば、裏が主で表が従となる病もあり、表裏がともに主となり、内外がともに主となる病もある。

その主となる部位こそが「本」である。先に論じた六経の部位が、すなわちあらゆる病の根本なのである。この「本」を明らかにしなければ、たった一つの病さえ治せない。

「病」とは、体が苦しむことをいう。健康、すなわち無病の反対の状態がこれである。

臨床推論上の意味

この四項目は、処方名や病名より前に、患者側の条件をどこまで見ているかを問う枠組みです。昆台は、一つ二つの症状を聞いただけで処方を決め、腹・色・脈まで先に決めた処方へ引き付けてしまう態度を強く批判します。

宿・因・本・病を先に立てることで、同じ表位の症状でも、桂枝湯・葛根湯・麻黄湯・大青竜湯・小青竜湯の使い分けが、単なる症状名ではなく、体質、原因、病位、気血水の差として見えてきます。これは、MLMN理論でいう多層的な臨床推論の入口として読むことができます。

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本文・書き下し・現代語訳は研究公開用のドラフトです。原本との照合と専門的検証を継続しています。臨床判断や治療判断を代替するものではありません。