論文・研究

論文の再構成と新たな投稿先の検討
古方派腹診の思想史的位置づけをめぐって

星野卓之先生のメール全文を読むAli Al-Naji教授の承認済み掲載文を読む

本プロジェクトでは、MLMN理論と日本漢方における腹診体系化をめぐる研究を、学術論文として整理し、外部の研究コミュニティに提示する作業を継続しています。論文は研究プロセスの一部であり、現在は 投稿先の選定と論文構成の再検討 の段階にあります。本ページでは、初期論文を形成史資料として全文公開し、そこから何を継承し、何を改訂したかを明示します。

Research languages: English / 简体中文 / 繁體中文

初期論文を、進化の出発点として全文公開します

初期論文候補/未査読/形成史資料
2026年5月16日作成・11頁

日本古方派における腹診体系化の思想史的意義
──MLMN理論(多層階層ネットワーク理論)による東洋医学二千年の統合的記述──

著者:石原幸一

要旨・検証状態・参考文献を見る / 初期論文PDFを全文で読む

このPDFは、MLMNがどこから始まり、その後どのように変化したかを批判可能にするため、冒頭の制作注記を含めて原文を改変せず公開します。完成版・査読済み論文・現行理論の正本ではありません。本文中の「完全定義」「確定」等は執筆当時の主張であり、現在は文献照合と臨床記録によって検証中です。AIによる抽出数も、底本、OCR精度、作品境界、原画像照合の進行によって変わり得る暫定値です。

初期論文(2026年5月)現行整理(2026年8月)
旧L1〜L10L0〜L9の10層。L0を出生前から出生時までの生命成立・初期条件として分離
旧L1に先天と長期的基盤を併置L1は出生後の生活・病歴・治療歴の中で形成された平常時基礎
旧L8に相火を独立層として配置相火は独立層ではなく、複数層を横断する典拠付き病機概念
強い確定表現を含む必要性、典拠、反証、検証状態を層ごとに公開し、改訂可能性を保持

論文の中心命題

本プロジェクトの研究論文は、日本漢方における腹診体系化を、東アジア医学史の長期的な観点から位置づけ直す試みです。その中心命題は次のように整理されます。

日本古方派における腹診体系化は、中国古典医学の演繹的構造と日本的実証主義の帰納的達成との、二千年越しの接合として理解できる。 — 中心命題(日本語)
The systematization of abdominal diagnosis in the Japanese Kōhō school can be understood as a convergence, across two millennia, between the deductive structure of classical Chinese medicine and the inductive achievements of Japanese empirical practice. — Central thesis (English)

この命題は、腹診という日本独自の臨床技術を、単なる日本的特殊性としてではなく、中国古典医学が積み上げた理論的構造と、江戸期の古方派が達成した実証主義的方法論との、長期的な歴史的接続として理解する立場を提示するものです。MLMN理論は、この接続を多層的なフレームワーク上で記述する試みとして位置づけられます。

臨床的な出発点:「東洋医学二千年問題」

石原幸一が提起する「東洋医学二千年問題」は、精緻な中国古典医学の理論体系を学んでも、個々の患者の生活史・病歴・反応・治療経過と、具体的な治療選択の関係が見えにくい場合がある、という約30年の臨床から生まれた問題意識です。一方、日本の古方派や近世臨床医書には、患者の体格、腹診、生活、投薬前後の変化、治療の失敗、回復の順序が具体的に記され、患者像と「どう治したか」が立体的に見える資料があります。

石原は、この差を民族や医学体系の優劣としてではなく、原典上の記述形式、残される臨床情報の密度、治療推論の示し方の違いとして検証する必要があると考えました。中国古典医学の演繹的体系と、日本の臨床家が積み重ねた帰納的実証がどこで接続したのか。その探索が、吉益東洞の毒論、宇津木昆台『医学警悟』『古訓医伝』の検討を経て、MLMNへ至る出発点です。

区別して読むために: 中国・日本の各原典本文、後世医家による解釈、石原幸一の臨床的問題意識、MLMNによる現代的再構成は同一ではありません。本サイトは今後、この四者と、底本・OCR・原画像照合・反証・検証状態を分けて提示します。「中国医学では治せない」「日本医学の方が優れている」という全面的主張ではありません。

中国医学と、日本の古方派は何が違うのか

「古方派」という言葉や、その成立の背景は、現代の鍼灸師・漢方医を含むすべての読者に共通の前提知識とは限りません。本ページでは、MLMNの研究史を理解していただくために、まず中国医学と日本の古方派の関係を簡潔に説明します。

日本の漢方医学は中国医学を起源とし、その古典・薬物・処方を受け継ぎながら、日本の歴史と臨床の中で独自に展開しました。江戸時代には、金元・明代の理論を取り入れた後世派に対し、『傷寒論』などの古典へ立ち返って治療を組み立てようとする複数の医家が現れ、後に古方派・古医方と呼ばれました。とくに吉益東洞は、観念的な説明よりも、患者に現れた具体的な症候と処方との対応を重視し、方証相対や毒の考えを独自に展開しました。

ただし、これは「理論の中国医学」と「経験だけの日本古方派」という単純な対立ではありません。古方派も中国の古典を根拠とし、その読み方と臨床への適用を組み替えたものであり、後藤艮山、香川修庵、山脇東洋、吉益東洞、吉益南涯、その弟子や批判者の考えは一様ではありません。腹診の重視、症候と処方の対応、病態を実体に近づけて捉えようとする姿勢などに日本での展開が見られますが、何が共通し、どこから個別医家の独自説になるのかは、各人の原著と相互批判を比較して判断する必要があります。

中国古典医学、現代中医学(TCM)、日本漢方の成立と違いについては、別ページ「中国古典医学・TCM・日本漢方」で詳しく整理しています。

参考:安井廣迪「日本漢方諸学派の流れ」(日本東洋医学雑誌 58巻2号、2007年)、舘野正美「吉益東洞の医学思想―中国古代医学思想との対比において」(日本東洋医学雑誌 63巻1号、2012年)。

星野卓之先生からいただいたご意見を、MLMNにどう反映するか

2026年8月、北里大学北里研究所病院 漢方鍼灸治療センター長の星野卓之先生から、本サイトのMLMN理論をご覧いただいた上で、漢方臨床と医史学の観点から貴重なご意見をいただきました。星野先生からは、メールでいただいた内容を本ホームページで紹介・引用・要約することについて、明確な許可を得ています。

一般の方への要点: どれほど整った医学理論であっても、現実の患者さんに起きている複雑な変化を、一つの分類だけですべて説明することは困難です。患者さんの言葉、診察所見、治療者の解釈、選択した治療、その後の変化を混ぜずに残し、時間の流れに沿って検討できる仕組みが必要です。

上部の「メール全文(全3通)」を受けて、以下ではWisdom Terra側の整理とMLMNへの反映を記します。

星野先生からいただいたご指摘

北里東医研で臨床情報の標準化を試みたご経験からも、臨床家ごとの信条は、重視する所見、その解釈、治療方針にまで関わり、後から一つに揃えることは難しかったと伺いました。そこでMLMNは、臨床家の違いを消すのではなく、患者さん自身の言葉、診察で確認した所見、治療者の解釈、選択した治療、その後の変化を分けて保存し、判断の道筋を後からたどれる仕組みを目指します。

星野先生からは、大塚恭男先生が患者さんの言葉をそのまま記すことを大切にしていたことや、古方派が憶測から出発せず、具体的な症状から病態へ近づこうとしたことも教えていただきました。処方名から後付けで病態を決めるのではなく、治療前に何が観察され、なぜその治療を選び、治療後に何が変わったかを残す必要があります。

同じ症状や同じ「証」と判断された患者さんでも、最初に現れた症状、その後に加わった症状、治療によって変化した部分は異なります。その順序と時間の経過を残さなければ、病態形成の経過を十分に検討することが難しくなります。

また、江戸時代の医家・吉益南涯の考え方も、生涯を通して全く同じだったとは限りません。南涯一人の著作だけで判断せず、父・吉益東洞、弟子、同時代に批判し合った医家たちとの関係まで調べる必要があると教えていただきました。

Wisdom Terraの受け止め

このご指摘を、一つの分かりやすい理論へ患者さんを無理に当てはめず、現実に起きた変化をできる限り加工せずに残す必要がある、という研究上の課題として受け止めています。

今回明らかになった初期論文の調査範囲と限界

初期論文には、宇津木昆台について『風寒熱病方経篇』と『緯篇』から計1,580命題を抽出して分析したと記載しています。一方、「日本古方派二百年」の流れを説明した部分は、浅田宗伯『先哲医話』から抽出した13命題を主な素材としていました。『先哲医話』は複数の医家の言説を伝える重要な資料ですが、この一書の抜粋だけで、日本古方派に属する医家の原著、学説の変化、弟子への伝承、批判と応酬のすべてを網羅したことにはなりません。

星野先生のご指摘を受け、宇津木昆台の独自性を日本古方派全体の代表として扱うことも、限られた13命題から「二百年の帰納的完成」を確定することもできないと認識しました。初期論文に示した歴史的な接続は、現段階では検証を要する研究仮説として扱い直します。

今後は、後藤艮山、香川修庵、山脇東洋、吉益東洞、吉益南涯、宇津木昆台らの主要著作に加え、村井琴山、中川修亭をはじめとする弟子・批判者・論争相手の文献を比較します。各資料について、原典画像を確認済みか、OCRのみか、成立時期が確定しているか、後世の引用によるものかを区別し、一致点と相違点をMLMNへ反映します。すべてを調査済みと先に宣言するのではなく、調査範囲と未確認資料を公開しながら、理論を改訂していきます。

このご指摘を、MLMNへどう反映するか

専門的な補足

『傷寒論』における主証・客証の先後は、条文中の「而」の前後関係と結びつき、時間差を伴う場合があります。吉益南涯は気血水分類を病位と結びつけて発展させましたが、若い頃と後年の著作では記述が変化し、成立時期が明確でない著作や写本で流布した資料も多いため、内容の変化から成立の先後を検討する必要があるとご教示いただきました。

その際は、一般的な『傷寒論』解釈から南涯独自の解釈へ進む変化や、生薬について独自性の強い説明が増える過程を、成立順を考える手掛かりとして読む必要があります。一方で、南涯が最終的に到達した考えを、弟子や論争相手まで正確に共有していたかは明らかではありません。

また、南涯だけを切り離して読むのではなく、村井琴山、弟子の中川修亭、吉益東洞への批判と応酬、西岡一夫先生の研究を含め、日本の古方派全体の議論と関係の中で位置づける必要があるとのご指摘を受けました。

星野先生は、古方派が現代に医療を行っていれば、生物学的製剤や分子標的治療のように、病態の実体と機序へ迫る方法に強い関心を持った可能性も示されました。これは歴史的事実の断定ではなく、古方派を固定した伝統理論としてではなく、当時利用できる知識・生薬・処方の範囲で実物に近づこうとした試みとして捉え直すための示唆です。限られた処方でさえ、気血水と病位だけで矛盾なく分類することには苦労の跡があり、単純な分類を万人が同じように使える体系へすること自体に限界がある、という問題も含まれています。

MLMNでは、気・血・水や病位を固定的な分類として置くのではなく、医家、著作の成立時期、解釈の変化を分けて記録します。さらに、何が先に現れ、何が後から加わり、治療後に何が変化したかを、L9の時間相と継続記録の中で保持します。

掲載範囲について: 本節は、星野先生から許可を得たメール内容の紹介・短い引用・要約と、それを受けたWisdom Terra側の研究方針を分けて記載したものです。星野先生がMLMN理論全体を推薦・監修されたことや、共同研究への合意を示すものではありません。MLMNへの反映内容と本ページの文責はWisdom Terraにあります。

投稿状況の現在地

本論文は、これまでに2つの学術ジャーナルに投稿しました。両ジャーナルとも、編集判断により 掲載に至らず、原稿が返戻された 状況です。返戻の理由は、論文の学術的内容そのものを否定するものではなく、対象ジャーナルの掲載範囲(scope)との適合性に関わる判断が含まれていると本プロジェクトは整理しています。返戻を内容否定と断定することはしていません。

投稿先結果本プロジェクトの整理
投稿先①(医学・文化系ジャーナル)返戻Scope mismatch として整理。論文内容そのものへの評価ではない。
投稿先②(東アジア科学・技術・医学系ジャーナル)返戻Journal fit issue として整理。論文構成の再検討の必要性を示唆。
返戻をどう受け止めるか: 2件の返戻は、論文の中心命題やMLMN理論の研究的価値を否定するものとしてではなく、論文の 構成 と 投稿先選定 の双方を再検討すべき段階に来た、というシグナルとして受け止めています。本プロジェクトは、論文の理論的内容を維持しつつ、より適切な投稿先と、より明確な論文構成を検討する作業に入っています。

返戻後の整理では、Google Drive 内の Paper Recovery 資料を確認し、初期論文候補、日本語完成系列、英文版、EAST投稿系列、CMC投稿・返戻系列を分けて扱う方針を確認しました。特に CMC 投稿系列については、本文・カバーレター・タイトルページ・投稿PDFをひとまとまりの検討単位とし、返戻理由を本文否定ではなく投稿先との適合性の問題として記録しています。

論文の再構成方針

現在の論文は、医学史的議論・理論論文・実装応用論文という性格の異なる複数の論点を一つの論文に含めようとする構成になっています。返戻を経て、本プロジェクトでは論文を必要に応じて 3系統に分割 することを検討中です。

A. 医学史論文

日本古方派・腹診・宇津木昆台を中心とした医学史・思想史論文。東アジア医学史・日本医学史系のジャーナルが想定読者。

B. 理論論文

MLMN理論そのもののL0〜L9の10層構造、病態形成経路、病機ネットワーク、毒の概念、理論的位置づけを論じる理論論文。東洋医学理論・統合医学系のジャーナルが想定読者。

C. 実装応用論文

東洋医学臨床推論支援システムの設計、古典文献のデジタル化、臨床推論支援の応用を論じる論文。医療情報学・デジタル人文学系のジャーナルが想定読者。

3系統への分割は確定方針ではなく、再構成の作業仮説です。論文の中心命題は分割後も一貫して保持され、各論文がそれぞれ独立した論証を持ちつつ、相互に参照し合う関係になることを目指しています。

新たな投稿先の検討

3系統の分割案に応じて、それぞれに適合する新たな投稿先の検討を進めています。医学史系・理論系・応用系のそれぞれで、論文の中心命題と整合的な編集方針を持つジャーナルを選定する作業を続けています。投稿先選定は、論文構成の最終確定と並行して進めるべき課題として認識しています。

関連する研究資料の整備

論文執筆の基盤として、本プロジェクトでは関連する先行研究・参考文献の整理を継続しています。論文候補の文献を一覧化し、特に優先度の高い印刷候補10件についてはPDF化を完了しています(Paper Recovery)。これは論文の文献レビュー、および日本漢方・古方派関連の歴史的研究へのアクセスを整える基盤作業として位置づけられます。

無料公開・参考論考の整理

初期論文は形成史資料として全文公開し、今後の投稿原稿とは版を分けて扱います。論文の背景となる考え方、資料群、古典文献の位置づけも、無料公開ページとして整理します。

MLMN理論

論文の理論的背景となるL0〜L9の10層構造、病態形成経路、病機ネットワーク、臨床推論支援への接続を整理しています。

無料公開ページを読む

医学警悟・宇津木昆台

論文の中心人物である宇津木昆台と『医学警悟』の位置づけ、命題抽出、Viewer整備状況を公開ページとして整理しています。

無料公開ページを読む

腹診アーカイブ

日本古方派における腹診の研究導線として、腹診資料・Viewer・今後の整備課題をまとめています。

無料公開ページを読む

この整理により、初期論文の原文と現行理論との差分を誰でも検討できます。詳細な層別定義書、本文翻刻・書き下し・現代語訳、腹診DBなどは、校合・権利・検証状態を確認しながら公開範囲を決めます。

研究プロセス

本プロジェクトの研究プロセスは、検証セッション形式で進められてきました。中国・日本の古典文献の照合を継続しながら構造を再検討し、2026年8月に現行L0〜L9の10層へ再編しました。相火は独立層から外しましたが、複数層を結ぶ典拠付き病機概念として保持します。各セッションの記録は研究内部の作業資料として保管されています。

論文本文の取り扱い

2026年5月16日の初期論文候補は、MLMNの形成史を検討できる未査読資料として全文公開しています。今後再構成する投稿原稿は別版として管理し、初期論文を上書きしません。版ごとの主張、典拠、検証状態、現行理論との差分を明示します。

論文の構成、投稿先選定、再構成のスケジュールは、本プロジェクトの研究進展に応じて更新されます。本ページの記述は現時点での整理であり、今後変更される可能性があります。

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